★思い出再現劇場★
【第3夜】
7)弟子入りという一歩前進
スナックでベロンベロンに酔っ払ったコージとオキナワ。
大野さんとの再会、そして大野さんの ♪いっぽんどっこの唄 の弾き語り。
「まただぁぁぁ!!なして、おらが歌ってほしい歌がわかるんですかぁ」
「おらぁ、弟子になりますぅー」(コージ土下座)
(中略)
「師匠だって言ってるベーー」(大野さんを殴る)
「なにすんだよっ」
「す、すいません、おらぁ、青森から出てきてぇー、歌手になり・・違っ、ばっちゃんを・・・・」(コージ、かなりパニック)
「なんなんだよお前」
「コージ落ち着けよぅ」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー・・・ぁぁぁぁあああーーーーー」
♪風の音が胸を揺する 泣けとばかりにぃぃー ぁぁあーーーっ 津軽ぅー海峡ーーっ 冬景色ぃぃぃーーー
♪何があっても もぉいいのぉーー
・・この展開、そしてその後の大野さんの「生きづらいだろぅ??そんなんじゃぁ・・・」という言葉。
コージのような人は私の周りに1人としていなかったようなタイプなので、これほどまでに不器用で優しくて清らかで繊細な人が生きていく難しさのようなものを、どうにかして真っ向から理解したい。そんな思いを抱えながら私はコージとオキナワの弟子入りを見守っていたのでした。
弟子入り後の、流しの修行をしている場面の演出はとても面白かったです。舞台の上と下とで、それぞれ時間軸が異なるというか、「回想」と「現実」とを上下で展開させ、音量やライトでうまくコントロールしている。文章ではうまく説明できないのですが、こういうのは舞台ならではの面白さだと思います。
そしてテレサとコージの、初々しい再々会。
「また、偶然、会いたいです」
「うんっ」
・・・
「命、くれない??」
「死ぬまで一緒、っていう恋の歌だべ」
「あぁ。ペット、ずっと一緒の意味ねぇーー」
死ぬまで一緒、って恋の歌。この会話が1幕のラストに繋がっていたことはそのあと把握することになるのですが、時間を追うごとにこの2人の距離がどんどん縮まっていくことが嬉しくて、慈愛のような気持ちがすでに私の心の大半を占めていた気もします。
ふるさとに降る雪の話から橋本さんの信玄餅登場の流れは、そんなほっこりした恋の始まりをぶった切るような痛快さもあり、緩急があちこちに散りばめられているな、と思いました。
8)流しのたまご
大野さんの弟子として大野さんにくっついてスナックを回り、ひょんな流れで ♪北へ を歌うことになるコージ。この時にスナックにいた女性の話を少しさせてください。北野先生の付き人のうちの1人なのですが、パンフレットでもそれらしい女性を見つけられず、初日公演が終わってからずっと考えていました。あれはどなたなのだ??女性が足りない???と考えあぐねつつ、配役ページでようやく気付いたのですが、男性の藤田さんという方が演じておられたことと理解した時はかなり驚きました。足細くておめめクリクリでとにかく可愛い!!!演劇の世界で異なる性別を演じられるケースは普通によくあることですが、この配役も違和感なくてよかったです。
話を戻しますが、いつの間にか北野波平先生とマネージャーの大橋さん(後半の大橋巨泉さんネタも面白かった!)が店にいるとも気づかず、リクエストを受けてオキナワのギターで ♪北へ を歌い始めるコージ。人前でちゃんと歌えなかった頃を思えば、こんなにリラックスして伸びやかに歌えるまで成長したのだということが感じられたとても嬉しい場面なのに、プロである北野先生には全く評価されずに終わってしまう。
「き、北野先生はどう思ったんだべか?おらの歌、のど自慢と思ったんだべか???」
この日の北野先生との再会も、とても意味のある出来事だったなと思います。
「君の歌の中には君自身がいない」
「客のために歌う?何様のつもりだ!!!」
「歌は自分自身でなければならない。今歌っている歌を否定されたら君のすべてを否定される、そんな歌を歌いたまえぇぇぇーー!!」
より印象的な部分を選びましたが、グサグサとコージの心に突き刺さっていくのがわかりました。
でもオキナワはわかってくれていた。
「俺はお前が自分のために歌ってるとこ、ちゃんと見たことあるからな!!!」
親友、いいなと思った瞬間でした。
9)テレサの想い、そしてテレサ奪還大作戦
お金のためとはいえ時には身体も売って男に媚びる仕事。
「マリアン姐さんは恋をしませんか?」
「しないね!したことないね!!!」
「ううん?姐さんもいっぱいしたんだよ、恋。いーーっぱい失敗したからこう言ってくれてるんだよぅ」
「なら、私失敗したいです、失敗してから考えます!!家族のこともお金のこともずっと失敗できずに来た・・私は失敗したい・・・」
正直あまりわからない世界の仕事です。でも心から想う人がいて、その人の元へ走りたいという気持ち、それはとてもとても、本当によくわかります。私はいつしか自分の過去をそっくりそのまま重ねていました。行きたい?じゃあ真っ直ぐ飛び込んでしまえ・・・でもあの時の私にはそれができなかったから今でも引っかかっている、そんな出来事が私の心の奥のほうに一つだけ埋もれています。だからテレサは行って!!!!そんな気持ちで見守っていました。
「自分でも薄々ダメだってわかってることでも、飛んび込ませてやりてぇの。ねぇ!!一緒に失敗、してあげてくれないかな????」
うまくいかなくてもいいんだよ・・・私にもこう言って背中押してくれる人があの時いたなら今ごろきっと何か違ってたかな?なんて不毛なことすらも思い出していました。エドゥアルダさんのこのセリフは、イントネーションも含めて耳の奥にしっかり、裕子さんの声で今も残っています。
ここから1幕の終わりは涙なしには語れないものでした。もはや徒然なるままにセリフを並べる必要もないでしょう。
ただ、愛した異国の美しい人を守りたいともがく青年。
♪命くれない ・・・「死ぬまで一緒、っていう恋の歌だべ」というあの時のコージの言葉をそのまま表すかのように力強くしっかりと指の間で結ばれた手と手。舞台の際ぎりぎりまで迫る、命がけの大人たち。生まれも育ちもバラバラな人たちの、異様なほどのあの結束。私はこの ♪命くれない のことを一生忘れることはないでしょう。
「アディオス!!テレーサ!!!」