思い出再現劇場

「1年経っても色褪せない俺節forever」


【第5夜】

13)コージとオキナワ、コンテストに出る

 

いよいよ人の出番。前のめり気味な感じでグイグイ出てきて「北津軽郡から来ました、あしk・・」と自己紹介しかけたのに素早く司会者に遮られ、すぐ歌う流れになってしまい、歌うは♪十九の春 バタヤン調

(初め私はこのバタヤン調というのが何なのかわからなかったのですが、歌っておられる田端義夫さんの愛称だったのですね。俺節で知ることが沢山、この名曲もその一つでした、ありがとうございます。)

 

しっかり歌い終わり、さぁ審査を!!というところまで来たと思ったら突然、下手側の上のほうから昭和のヤンキー、はたまたスケバン刑事のような風貌のヨシコちゃん登場。悪巧悪徳先生の娘が出来レースで優勝し、デビューも賞金もかっさらって行くという、変にありそうなとても悔しい展開でした。ただ桑原裕子さん演じるヨシコちゃんは毎度アドリブが炸裂しておられたので、ストーリー抜きにして毎回笑わせていただいた場面でした。そういえばヨシコちゃんが欲しがっていたバイクも終演後にどんな形なのかを検索したなぁ・・と今ふと思い出しています。

 

でもこのコンテストをきっかけにコージとオキナワは

「・・・なぁ俺ら、もう人の歌歌うのやめようぜ??自分の曲で勝負してぇよ!オリジナルで作ってよぅ・・?俺たちの歌だよ・・??」

「お・・おお!!いいべ!!!それやるべぇ!!!!」

と新たなステップを踏み出すことになる。

 

そして!!コンテストでの、熱量ある人のパフォーマンスをちゃんと見てくれている人が人いた。

どこからともなく・・という感じで現れた、いかにも業界人というか、インナーが妙にぴちっとした服装の鈴木雅之さん、いや戌亥さんに呼び止められ、

「俺はお前たちに票入れたんだぞぅーー?」という言葉に急にギラつく人。しかもさすがというべきか、人の目的が「デビュー」であることすらも見透かしている。

「だったらしちゃおうよぉ!デビュー!えっ?えっ??なんでデビューしないの?!こんだけ歌えてさぁ??顔も悪くなーーい、キレてなーーい」

と踊るように畳み掛けてくる戌亥さんに乗せられて、あひる口からのジャミロクワイ!!ここもまたコージのサービスショットでした。

 

ジャミロクワイといえばやはり♪Virtual Insanity が真っ先に浮かぶ私ですが、恐らくこの曲がヒットしたのは90年代後半くらいでしょうか。上京した頃の♪真夏の果実 からもう数年経っているのだ・・・と時間の流れをもさり気なく感じさせてくれたのが実はジャミロクワイだったのですが、これも福原さんの巧みな脚本、そして演出だったのならば、やはり本当に素晴らしいです。

 

戌亥さんからの誘いは、まさにスカウト。遂に訪れた大チャンス。でも告げられる非情な言葉。

「伴奏の方は、遠慮してもらえるかな??」

途端に曇るオキナワの表情。

「いや・・だから・・・あの・・オキナワも一緒に。おらたち、いつも人でぇ・・・」

コージの言葉に人肩を組み、手であひる口を作るオキナワ。でも戌亥さんは変わらない。

「だいたいお前ひとりなら優勝できてたんじゃねえの?」

「だども・・オキナワは上京して初めて知り合って、家にも泊めてくれて、じぇんこ奢ってくれて・・」

コージの素直で優しい言葉が戌亥さんに翻されていくたびに、オキナワがどんどん無になっていくようで寂しかったです。出会いからここまで人で頑張って来た。これからだって一緒。そう思っていたものが音もなく無残に崩れていく瞬間でした。

オキナワ・・・

 

 

14)テレサの苦しみ~前半~

 

サンドイッチ工場でパンにピクルスを挟む工程を担当しているテレサ。いわゆるライン作業と呼ばれる仕事、日本語が読めなくてもできる、ということで始めた昼間の仕事だったのでしょうか。

ピクルスの置き場所が悪いと怒鳴られるも同じパートのおばちゃんたちに優しく庇ってもらえて、今度もテレサは職場の仲間には恵まれているんだ!とホッとしたのも束の間、そこに現れた米村主任は一見テレサを守ろうとする優しい上司の顔を纏った、ただの下衆な男でした。

 

テレサの彼氏が演歌歌手を目指していることに触れ、テレサの心を開いたと思った瞬間、

「・・時々ビザ切れた人が紛れ込んでたりするから調べさせてもらいましたよー。君の状況は入管に通報すれば一発で強制送還でしたよ。まだバレてないからよかったものの・・・そっちの一発よりこっちのイッパツの方がいいでしょう?で、おいくら???」

「ワタシは、そういう女ではないです・・・」

「君が自分のことをどう思おうと、はたから見たらただの売春婦だよ」

「ちがう!!!!」

「君を雇ってるだけで私も捕まっちゃうんだよ。まぁ私の場合はもし警察に見つかっても、知らなかったで通せるけど。彼氏さんはダメだろうね。デビューもなくなるでしょう??」

 

オキナワとコージ、そして仲間たちが救い出してくれたからストリップ小屋から足を洗うことができたのに、未だに付き纏う自分の過去。そして米村主任から黙認する代わりに身体を要求される。

ひどい話、でもこういう扱いはきっとあるんだろうなと思えてしまい、テレサが不憫でなりませんでした。

一方でコージとオキナワも、戌亥さんとのあの出会いから溝が生まれてしまい、あんなに仲睦まじくボロアパートで人暮らしをしていた幸せな日常が少しずつバランスを失っていく、そんな場面でした。

 

「やーーっぱーりー 器用に 生きられないねー 似たようなぁーふたりと 笑ってーたーー 鳳仙花 鳳仙花ぁー 弾けてとんだ花だけーどーー 咲かせてぇー欲しいのー あーなたの胸でーーーー」

溝端育和さん演じるママさんの、とてもとても綺麗な歌声の♪鳳仙花 がとてもとても切ない場面でした。(余談ですが、その後この歌はカラオケで何度も歌うお気に入りソングになりました。)

 

 

15)それぞれの葛藤 

 

ママさんの歌声ともにスナックに場面が切り替わり、大野さんとコージが入店。

いつの間にかスナックにカラオケマシンが設置されていて、大野さんは気づきつつも何気ない素ぶりを見せる。そして全く何も気づいていないコージは、小慣れた流しとして「どうです??よければ一曲??」と言わなくてもいい言葉を常連客にかけてしまい、スナックの空気がとても気まずくなってしまう。でも、オキナワとのことや降って湧いたデビュー話で頭がいっぱいのコージだけはその空気感に気づけない。こういうところ、やはりコージは不器用というかなんと言うか。それがコージの良さであると理解できるものの、あらゆることに真っ直ぐすぎて、人の心の機微が読めないコージのダメなところが見事に露呈しているのを痛感してしまうシーンでした。

 

オキナワと一緒に続けたい、これまで人で楽しくやってこれたからこれからだってそれが正解だと思う。その選択肢しか思考回路にない。それ自体悪いわけではないけれど、自分だけと言われると後ろ暗い気持ちになってしまう。でもそれを、ただの流しでデビューとは無縁の、何ならつい数分前にカラオケマシンという最新技術に流しの存在を全否定されてしまったばかりの大野さん相手に、馬鹿正直に相談してしまう。

にもかかわらずコージに向き合ってくれる優しい大野さん。

 

「世の中、そんな上手くできてねぇよ。本当に清く正しく、一片の後ろめたさもなく生きて望んだものが手に入るなら、演歌なんていらねぇんじゃねぇのか?」

「なら!!なおさら、歌にだけは正直に居たいじゃないですか・・・」

「そうだ!歌には正直でいろ!歌さえあれば真っ直ぐ生きられる。逆に言えば、歌にすがるしかねぇんだ、俺たちは!今お前がすがるのはオキナワじゃねぇ・・・」

コージには難しい話のようで

「テレサとも相談してから・・」

と結局自分で決めきれないコージは大野さんに呆れられてしまう。そしてスナックを後にしようとしたとき、ママさんに言われた

「あ、今日お代、大丈夫だから」

という言葉で、全てを察してしまう大野さん。

 

カラオケマシンの台頭で流しという仕事は実際にも追いやられることとなったのでしょうか。この辺りの現実は知らないのですが、

「もういい!!どうして俺を置いてけぼりにするやつの相談に何度も乗らなきゃならねえんだよぅ!!!」

という大野さんの言葉は悲痛でありながら、それでも「何度でも」弟子であるコージの声を聞いてくれる優しい師匠。勢いでぶん殴った挙句弟子になります!と飛び込んできた純粋で心優しい人の青年を最後まで放っておけなかった人。見方を変えれば大野さんは踏み台にされたのと大して変わらないし、ただの貧乏くじだったかもしれないのに、どうしてこうもコージを取り巻く人たちは優しさに溢れているんだろう、コージがそうさせるんだろうか?と思うようになっている私がいました。

 

そして同じ頃、楽しく暮らしたアパートからギターケースひとつで出て行こうとするオキナワ。米村主任から心無い言葉を浴びせられ心に傷を負って帰宅したテレサと遭遇してしまう。

「・・ジャマかな?ワタシ、ジャマかな???」

「邪魔はオレの方だろうがよ」

「誰のジャマにもなりたくない。誰かの重荷になりたくなくて・・私、家族が重荷だったから・・・。ひどいよね?ひどいけど辛かったの。イイ人たちだよ?悪い人たちなら裏切れた。けど、みんなイイ人たちなの。コージにも、私なんかのために我慢して欲しくない。自分のため、だけに・・生きて欲しい」

この言葉に背中を押されるように、少し寂しい顔で

「今からすることが間違いじゃないって改めて確信したわ」

そうオキナワは言って去ろうとする。

 

「ギターケースひとつに収まっちまうような暮らしだったわ」と捨て台詞のようにギターを残して出て行こうとする、まさにその時コージが戻ってきた。

テレサが指差す残されたギターで全てを察したコージはオキナワを引き止めることもなくただ俯いて「へば・・・」とだけ。そしてオキナワはその横を去って行ってしまう。

北野先生のオフィス前で初めて出会った際に♪なみだ船 の伴奏を弾いてくれた時に言った「へば・・・」とは全く違う。あの時は「それでは!!」という始まりの言葉。でも今回は「じゃあね」という別れの言葉。

 

大野さん、オキナワ、テレサ。みんなそれぞれいろんな思いと現実を抱えて、どんどん変わっていってしまう。

オキナワを引き止められなかったことをテレサに責められたけれど

「分かってる!!分かってるから・・・人じゃなきゃデビューできねぇって言われたから、おらぁ、デビューする。デビューして、おめぇを幸せにする!!!!」

「オキナワは??ナカマでしょう??」

「そんなにしょいこめねぇ!!誰も彼も幸せにできねぇべしゃ!!!!」

あれ以来コージを苦しめ続けていた、仲間でありながら重荷となってしまったオキナワの存在。限界まできていたコージはもう泣き出しそうで。でも

「テレサだけは、離さねぇから・・・、おら、おめぇがいれば、闘えっから・・・」

といつにも増して男らしさもあり。

 

♪逢いたくて 逢いたくて

「愛したひとーは あーなたーだけーー 解っているのーよーーー 心の糸が結べーないーー ふーったりは恋人ぉーー・・・」

 

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