思い出再現劇場

「1年経っても色褪せない俺節forever」


【第8夜】

22)オキナワと北野先生、そしてヴァレーニキ??

 

自宅の地下にこんな座敷牢のような環境が整っている北野先生とはいったい何者なのか、どんな性癖があるのか非常に気になるところではありますが、あまり掘り下げずに進めていきます。

軟禁生活途中に差し入れとして先日受け取った箒をまるでギターのように抱えるオキナワ。そこへラスボスの如く現れた北野先生に、よほどギターが好きなんだなと指摘されたことで、気恥ずかしさからか少し慌てるも、悪びれることなく強気に「出してくれよ!!」と答えるオキナワ。それに対し、堂々とした雰囲気の北野先生から出た言葉は
「恐喝犯を出すわけにはいかねぇな!だが・・・・一人前の作曲家なら別だ!どうだっ、俺のところで曲を書いてみないか?いい曲があれば、この北野波平があずかってやろう!!」

 

なんと懐の深い北野先生。手癖の悪さからかつて出禁になり、今やチンピラにまで落ちぶれてしまったこの青年に救いの手を差し伸べる。野放しにせず自宅で軟禁という形を取ったのは、それこそ外で警察の厄介になるような事件などを起こしてしまうことがないように、あえて物理的に隔離した、まさにそんな粋な取り計らいだったのです。

「・・・!!おまえ、まさか、そのために俺を閉じ込めたのかよ??ヶ月も!!」

オキナワが驚くのも無理はないでしょう。でもここは演歌の大御所、やることの次元は一般人の思考回路とはやはり異なるのかもしれません。

 

「もうひと月か・・・・何もすることのない座敷牢で、でも何をしてもいい座敷牢で、お前がしたのは曲を作ることだった。そろそろ自分がそういう人間だということを自覚しろ!俺は貴様のような負け犬を見捨てることはしない。演歌は貴様のような人間のためにあるからだ・・・・」
「さっきから貴様、貴様って・・・・」

そう言い返すのが精いっぱいのオキナワを前に、座敷牢に近づいて柵を持ち上げようと試みる北野先生。慌てて止めようとするオキナワを尻目に、いよいよ柵を壊して持ち上げ、さらには柵を振りまわし始める、とにかくパワフルな北野先生。火事場の馬鹿力、のようなものでしょうか。驚き、そして柵をよけるようなオキナワに対して、

「俺は嬉しいんだよぉぉぉーーー!!あああぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!!」と絶叫の北野先生。

 

「こわいよっっ!!!」とオキナワが振り切るも、既にスイッチがしっかり入ってしまった北野先生は

「じーーーんせいは ワンツーパンチ!!!・・・・・」と ♪365歩のマーチ をフルボリュームで歌いながらオキナワの肩をしっかり掴む。

「あなたは・・いつも素晴らしいぃぃーー 希望のーー 虹を抱いているーーー」

歌い切り、床にバーンと大の字に倒れ込む北野先生。その様子はあまりにも迫力がありすぎて、御歳70を超えていらっしゃるとは到底思えない、ただものではない西岡徳馬さんの俳優としての力強さが漲っていた、とてつもなく見ごたえのあるシーンでした。マチネ・ソワレの二公演という日もたくさんあり、日最大トータル時間という長丁場の日々で本当に素晴らしかったです!

 

「俺、おっちゃんみてぇなヤツ、もう1人知ってるわ。おもしれぇヤツだったよ、そいつも・・・・・・」

「そうか、会ってみたいなぁ・・・・・だがその前に、歌を完成させろ!!!」

北野先生の言葉に感じるものがしっかりあった、そんな感じで転がった箒のもとへ駆け寄るオキナワ。

そして箒を持ち上げて床に叩きつけようとしながらも思いとどまり、

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」

すでにそれは箒ではなく、もはやそれはギターでした。

「かっこいいぞー!!オキナワぁぁぁーーー!!」

外した柵を持ち上げた北野先生と、箒でエアギターをするオキナワは、歌舞伎の如く見得を切る。北野先生とオキナワの見せ場、まさにそんな感じでした。

 

そして警察に出頭したテレサはというと・・・

「えー??バレーニク????」

「あぁぁ惜しいーーっ、ヴァレーニキ!!」

「ヴ、ヴァレーーニキ??」

「そうそう!!!」

なぜか取り調べの私服警察官と、雑談で盛り上がっている様子。模範的かつ協力的なテレサは連日の取り調べの日々の中で既に警察官の心をしっかり掴んでいるようで、決して自由な身ではないものの辟易とした感じも殺伐とした雰囲気もなく、取調室という状況下でテレサも担当警察官名もコミュニケーションを楽しんでいるようでした。テレサが元気そうで何より、といったところです。

 

話題が祖国の話になり、ここに来てもうヶ月も経つということで改めて表情が曇ったテレサ。捜査中という状況ゆえ安易に身動きをとれるわけではない、何ができるわけでもない中で警察官の優しい取り計らい。

「テレサさん、何かありますか?食べたいものとか、したいこととか・・・・」

そう聞かれたテレサは、たぶん無意識に答えたのだと思います。

「・・えんか・・・・」

「・・演歌??」

「演歌を、聞きたいです」そう答えたテレサはおもむろに

「しらかばーーー あおぞーーら・・・・」

まさかこのブロンドの美女から♪北国の春 という往年の大ヒット曲を聞くことになるなんて!というのが警察官人の率直な感想だったと思いますが、当のテレサの心の中にはたった人、あの人の存在。

 

「きっと・・・この歌ではなくても、好きになっていたかも・・しれません。歌詞とか、メロディとかじゃなく、気持ちが!!飛び込んできたんです・・・・わたし、歌っている時の、気持ちを、好きになったんです・・・・」

警察官たちは、てっきり本来のこの歌の主である千昌夫さんの大ファンなのか???と思い尋ねるのですが、すでにテレサは心ここにあらず。

「あの気持ち・・・・あの人が歌っていた気持ちは、わたしの気持ちでした・・・・・じゃあどうして、わたしの気持ちが、あの人の中から・・・出てきたんでしょう??」

ぼんやりと空(くう)を見つめるように、そして誰に対して問うたわけでもないテレサのその言葉に、千昌夫さんの連絡先がわかるか??と後輩警察官に本気で尋ねている先輩警察官が妙に滑稽な場面でした。

 

 

23)コージ、挫折。

 

場面はかわっていつもの横丁。

ただ何となくあの頃とは違ってさらに寂れた雰囲気が漂っている横丁。そこへ、カラオケマシンという時代の波に飲み込まれて職を失いつつある大野さんがかばん1つで現れる。1日の労働を終えた横丁の住人たちに誇らしげに1曲歌ってくれたあの頃の面影など微塵もなく、何か仕事を紹介してくれないか?と頼み込んでくる大野さん。あの俺たちの大野のダンナが・・・随分と景気も悪くなってしまった、そんなところです。

 

「コージも帰ってきたばっかだしよぉ・・・・」

「!!!!コージが?コージもいるのか?????」

「いるよぉーーーーー」(ゴミ袋の山から突如起き上がってくるコージ)

デビュー目前まで漕ぎ着けたにも関わらず、

こうしてここに戻ってくる羽目になった経緯を横丁の先輩たちが説明してくれ、テレサのことについても

「故郷(くに)に帰りました・・・・」と寂しげに答えるコージ。

「・・・おらに残ったのは・・・冴えない仲間と、落ちぶれた師匠だけです!!」

少しでも明るく努めて答えようとしている、そんな感じでした。

「僕の人生、終わりです・・・・」とうなだれるコージ。

「終わりだ!って、さっぱり終われるならいいけどな」

「・・じわじわ衰えてくからイヤなんだよなぁ・・」

 

そんなやり取りの中で、ふと思い立ったかのように

「じゅーーーぶんっ、歌いました。でも・・・届かなかったんです・・・・力不足です。意外と、さっぱりした気持ちです・・」そう答えるコージに対し、

「お前、それ、本当に歌を歌ったのか????」と、少し哲学的な聞き方をする大野さん。

「へ??歌いましたよ??知ってるでしょ??流しで散々一緒に歌ってきたじゃないですか!!!・・・・それに、結構コンテストとかも、出たんですよ???」

そう言いながら、何の肉かわからないバーベキューの串を貰おうとするも受け取れず残念がるコージ。

 

「俺は流しのプロとして、レパートリーは、2000曲はある。だけどそれって、歌か??」またしても哲学的な大野さんの言葉に

「歌じゃないなら、何なんですか??」

「・・・・・たぶん、楽譜だな!俺の頭ん中にあるだけならそれは、楽譜だ!俺の口から出て初めてそれは・・・」

「歌になる!!!」陛下が割り込むも

「いや、音になる・・お前の耳に届く・・・まだ、歌じゃない。・・お前の心に響く・・・惜しい!!まだ、歌じゃない。お前が日々の暮らしでアレコレ打ちのめされて、歯を食いしばってるような場面で、頭の中にいつか、俺が発した詞とメロディが鳴り響いた時、初めて、歌になるんだ!!!!」

そう大野さんに言われて、何も言えず少し思いつめたような表情になるコージ。

 

「自分の歌が、はたして歌だったのか?・・・なんて、すぐにわかるもんじゃねえぞ???何年後、何十年後に初めてそれがわかるかもしれない。じゅうぶん歌った、なんて簡単に言うな!!」

厳しくも、弟子を想う大野さんの言葉に泣きそうになるコージ。

「でも・・・・・誰に何をどう歌ったらいいのか、もうわからねぇです・・・・・・」

・・何もかも失ってしまったコージ。しっかりしてほしい、でも何とか支えてあげたくなる、そんな弱々しいコージの姿がとてもとても物悲しい場面でした。

 

 

24)オキナワ渾身の曲をうむ、そしてコージとの再会へ 

 

「そんなコージくんに!!ぴったりの歌がありますっっ!!」

突然響き渡る、聞き覚えのある良く通る声。下手の上から現れたその声の主に、横丁の住人たちは

「き、北野 波平???????」声をそろえて驚く。

「あぁこんな恰好では誰だかわかりませんなぁ・・・・申し遅れました・・・わたくし・・・・」

いつもの決まったセリフで自己紹介を始めながら階段を下りてくる大スターの姿にテンションが急上昇する横丁の住人たちとは対照的に、こぼれ落ちそうになる涙をこらえることだけで精いっぱいのコージ。

 

マネージャーの大橋を引き連れた北野先生はフランクに

「こんなところで何してんだ、大ちゃん!!」

「そっちこそ、こんな汚い横丁に何の用があるんだぃ、へいちゃん!!」

どうやら北野先生と大野さんは旧知の仲。つい先ほど自分たちに仕事を紹介してくれと頼んできた人が、まさかこんな大物歌手と親しいなんて!!という衝撃の現実にただただ舞い上がる横丁の住人は

「ライバルだからな!!」と自ら答える北野先生の言葉でますますどよめく。

 

そんな北野先生がここに今日現れた理由。それは1枚の紙をコージに渡すという重大な目的でした。

「・・・・曲も詞も、オキナワが書いた。これをもらってほしいやつが・・・いるらしいんだが・・・??」

少し思わせぶりな言い方をする北野先生。

「おら・・・受け取れねえです」

「そんなこと言わずに受け取ってやってくれよ!!!」

そんなやり取りの中でまた下手の上から聞き覚えのある声が。

「何もったいぶってんだよ!!!カッコつけてねーで受け取れよ!この田舎モンっっっ!!」

「・・・・・オキナワ???」

懐かしいオキナワの姿に、コージは涙ぐんでしまう。

 

「デビュー、なくなったんだってな」

「耳が早えぇな・・・・・」

「テレサは?」

「故郷(くに)に帰ったよ・・・・・・」

・・・・

「なら、もろもろちょうどいい!!お前が何もかんも、夢も希望も女もなくなったらよぅ!!俺とちょうど良くなると思ってたよ!!」

そう言いながら階段を下りてきて、楽譜を手にコージに歩み寄る。

あの薄暗いアパートでの突然の別れ以来の、思いがけぬ再会。

 

「気軽な気持ちで見るなよ!!」

「じゃあ・・・・見ねぇ・・・・」

「いや、ちょっとは見ろよ!!」

「見ねぇ!!」

楽譜を押しつけ合う2人。そしてコージは

「帰ってけろ!!!」

「ここは元々俺の横丁だよ!!!」

2人の会話に、お前の横丁じゃねぇよ!と、外野のように見守っていた横丁の住人たちからのヤジが飛ぶ中で

「そんな思い、背負ぇねえよ・・・。おら、余計なもの捨てて自分だけになって・・なのに・・自分のことだけで重荷に感じてんだ・・・。今さら、新しく何かを背負い込むなんて・・・」

「おっかねえんだ!!!!!!」

客席にお尻を向ける形で、舞台の際ギリギリのところで体を丸めるようにうずくまるコージ。

 

「情けねえこといってんじゃねえ!!!!」

とオキナワがコージを掴んで殴りかかろうとしたところを、咄嗟に手元にあったビール瓶で反撃しようとするコージ。でも振り上げたと思ったら止まってしまう。

「おう、いい顔してんじゃねえか!!そういう顔してる方が好きだぜぇ???」

それでも頑なに楽譜を見ることを拒むコージ。

「・・・おめぇが歌えばいいだろ!!」

「俺じゃあ、ダメなんだよ!!!どんなに思いを込めて曲作ったって、俺1人じゃ客には届かねえ。俺はなぁ、誰かの助けを借りねえと、自分の思いを伝えらんねえんだよ!!」

 

「北野のおっさんも言ってただろ??歌は、自分自身でなければならない、って!!」

オキナワのその言葉に

「そんなことは、言ってない!!」

と会話の流れを止めてしまう空気の読めない北野先生。

「言ったよ!」

「言ってましたよ??」

あの日スナックに居合わせたオキナワと大橋それぞれに続けて突っ込まれ

「・・じゃあ、言った!」

北野先生が早々と方向転換して認めてくれたことで続けるオキナワ。

 

「これを否定されたら、自分の全てが否定される、そんな曲を書いた。なのに、歌う前から否定しないでくれよ??なぁ???」

その言葉にようやく立ち上がるコージ。でもすぐさま

「・・堪忍してけろ・・。」

そう言って土下座をするコージに

「俺も男だ、1回吐いたゲロは飲みこめねぇ。これは置いていくからな!」

そう言うとコージの背中に楽譜を乗せて去るオキナワ。

オキナワが去ったあともコージは土下座のまま動かない。そんなコージに聞こえるように、そして優しい言葉をかけるよう話す北野先生と大野さん。

 

「・・オキナワに、言われたよ。俺とコージはよく似てるって。」

「奇遇だなぁ!!俺も、コージと俺は同じだと言ったことがある!!」

「そうかぁ!じゃあ大丈夫だな!!」

「どっちに転んでも・・歌は捨てない。存分に、悩め!」

そうコージに告げた北野先生は、何の肉なのかわからない例の怪しげなバーベキューの串を見て

「よし!肉食いにいこう、肉!!!この辺にうめぇ猪肉食わせる店があんだよ!! 

「お前たちも行くか!」と、横丁の住人たちまで誘って去って行く。(この時、舞台日程の後半に行けば行くほど、大橋巨泉さんネタが楽しく繰り広げられたことは言うまでもありませんね。大事なシーンにあえてこういう笑いの要素をたくさん放り込んである脚本の自由度が、見ていてとても楽しかったです。)

 

皆が去ったあと、1人で横丁に取り残される形となったコージ。ゆっくりと背中の上の楽譜を手に取り、どうしようかと悩むようにしていたまさにその時、

・・・バン!!!!!!!!!

上手側にあった、扉なのか板壁なのか、とにかく突然開いて中から戌亥さんが登場。

「安心してんじゃねぇぞぉ!!!」

驚いて腰を抜かしそうなコージに戌亥さんは容赦しない。

「仕事だ、コージ!!!前座であの曲歌え。」

「・・・だども・・行代さんは???」

「行代は来ねぇよ!!おめえ1人で歌うんだ!!」

「・・だども、おら・・歌えねぇです・・」

拒むコージの言葉に明らかに苛立つ戌亥さん。

 

「コージよ!!これは俺が必死で頭下げてとってきた仕事なんだよ!こちらの必死に対して、穴埋めをすべきじゃねえのか? 

「・・すいません」

謝るコージに捨て台詞のように

「逃げんなよ!」

と言い残して去る戌亥さんは、地面にあった何かを踏んでしまったようで、さらに苛立ちを倍増させながら履いていた靴を投げ捨てて去っていきました。

 

 

そしていよいよ独りぼっちになり、葛藤しながらも楽譜を掴んで見入るコージ。溢れ出す涙を拭って立ちあがり、楽譜をくしゃっと丸めて捨てようとするも、何かを思ったのかポケットに押し込む。そしてそのまま少し顔を上げて足早に上手奥に消えていくコージの背中に、何とも言えない漠然とした何かを感じたのですが、それが何だったのかは未だにわかりません。

 

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